ずっと、聞きたかったはずなのに……恐ろしかった。振り向いて自分の方から抱きしめてしまいたいと思ってしまったから。
「10分」
「……」
「たったの10分しかなかったが、それでもテレシアに会いたかった……」
10分。それは一日で考えるとだいぶ短い時間ではあっても、今の私にはとても長く、そしてとても短い時間に思えた。
それだけ、団長様といる時間が怖くて、そして嬉しく思った。
「……近衛騎士団長様」
「テレシア」
「今は隣国の使節団の方々がご来訪なさっています。ただの騎士団員の部屋にいらっしゃる時間はありますでしょうか」
「……」
「早くお戻りになられた方がよろしいかと存じます」
本当は、こんな事は言いたくない。そう、言いたくない、はずなのに。けれど、怖かった。
「それに、ロドリエス侯爵は今回いらっしゃった第三王女殿下とのご婚約が決まっているではありませんか。こんなところに来て変な噂にでもなれば大変です。あなたは、この国の近衛騎士団長です」
「……」
「……我々騎士団の憧れで、目指す先にいらっしゃる方です」
だんだん、私を抱きしめる腕に力が入る。耳に彼の髪が当たり、くすぐったく感じる。
この、抱きしめる手に触れたい。そう思っていても、怖くて、触れられない。
「お戻りください」
隣国は医療技術の高い先進国。この国にあるいくつもの大きな病院は、隣国との友好関係があってこそ実現した、いわばその証でもある。それは、稼ぎの少ない平民であってもかかる事が出来る病院もある。
そのおかげで、家が貧乏だった私でも昔熱病にかかった時に病院のお世話になることが出来たのも覚えている。
だから、隣国との友好関係を悪くすることは、絶対にしてはいけない。
「近衛騎士団長」
その時だった。コンコンッ、と私の部屋にノックがされた。テレシアちゃん、と呼ぶ声が聞こえてくる。この声は、寮母だ。
私は抱きしめる手をガシッと掴み、外した。私だけの力で出来る事ではない。きっと彼が手の力を緩めたんだ。
けれど、顔を見ることが出来ず、彼をドアの死角に押しやりドアを開けた。
「ごめんなさいね、疲れてるのに」
私は寮母を数歩下がらせ私は部屋から出てドアを閉めた。寮母は何か気が付いただろうか、と内心焦りつつも平常心で「どうしました?」と返した。
話している寮母は目の前にいるのに、声が少し遠く感じる。それよりも、先ほどの事で動悸が収まらない。
せっかく、来てくれたのに。たった10分の空いた時間でも、来てくれたのに。残り時間は聞かなかったけれど、きっともうそろそろだと思う。



