次の日、聞いていた通り第二王子が遅れて来訪した。一体何が理由で遅れたのか聞いていないけれど、私達には関係ない。それよりも目の前の仕事に集中しなくては。
「テレシア、聞いたか? 近衛騎士団長、今来日なさってる隣国の第三王女と結婚するんだとよ」
昼休憩中のガストン先輩のその話題で、食事をしていた手が止まった。
昨日の今日で、先輩の耳に入った。いや、私が聞いていなかったのかもしれない。
「隣国との友好関係を強固にするのであれば王女をもらった方がいいよな。こっちには王女はいらっしゃらないんだから。まぁ、王太子殿下はいらっしゃるが今ご婚約なさってる。例え侯爵家であってもこの国の軍事力を管理するお方なら釣り合ってるってわけか」
政治って難しいよな~、と唐揚げを一口で食べるガストン先輩。けれど、私の視線は目の前にあるカツレツにしか向かない。
隣国は医療技術が進んでいる先進国。ならこの国としても関係をずっと持っていたいところではある。
「……テレシアお前騎士団長に気でもあったんか?」
「……第三王女殿下、すごく可愛らしかったし、純粋というか……だから、心配というか……なんというか……」
ガストン先輩の質問に、かろうじて上がりそうになった肩をぐっと抑えた。平常心、と言い聞かせてもなかなかに難しい。
咄嗟に出た、嘘。けれど、すぐに否定が出来なかった自分に呆れてしまいそうになる。
「……言いたくはないが、生贄……」
「ストップ」
「この国の未来は明るいな! そんなところで剣を振るえる俺達は幸運だ!」
そう高笑いしているが、何を言いたかったのかはよく分かった。皆にとって近衛騎士団長は怖くて恐ろしい人だという認識だから。けれど、私は知ってる。そんな怖い近衛騎士団長でも、優しい面があるという事を。
……何馬鹿なこと思ってるんだろう。
きっと第三王女は知らない、私が知っている事。……だなんて思ってる私は大馬鹿者だ。そんなわけがない。
やっぱり、駄目だ。頭が言う事を聞いてくれない。
今までの事は忘れるべき。そう自分に言い聞かせても、勝手に脳内に映し出される。今までの、リアムとの思い出が、溢れてくる。
リアムに抱いてしまった、この想い。消したくても、むしろ大きくなってしまっている。
これを止めるには、どうしたらいいのだろう。
本当に、馬鹿だな……
第三王女を連れた使節団が来訪し、遅れて次の日に第二王子が到着した。そして明後日にはお帰りになる事になっている。
果たして、最後まで何事もなく終わるだろうか。そう願うだけだ。そうすれば、またいつもと変わらぬ日常に戻る。
あの婚約破棄事件前の、いつもの日常に。
ようやく警備を交代し、今のうちにしっかり寝とけと言われ女子寮に戻った。皆さん大忙しだから女子寮に帰っている人は何人いるだろうか。
私のように短時間の睡眠だったとしたら大きな音で起こしては悪い。だから静かに部屋に戻った。もうさっさと寝て先輩と警備を交代しよう。
その、はずだった。
背中が、温かくなった。後ろに引かれた感覚がして、誰かに抱きしめられた。
これ、この前にもあった。そう思い出すと、期待してしまった。
「テレシア」
ずっと、ずっと聞きたかった声が、耳元で囁いた。



