騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


 任務に戻った団長様は、屋敷を出る前に私をここで一晩泊まらせるよう執事に伝えていたらしい。だから私はその後女子寮には戻らず客間に泊めてもらった。

 そして次の日、団長様と会う事はないまま女子寮に戻り、いつも通りの鍛錬から一日が始まった。

 けれど、あまり気が入らない。

 昨日のあの告白のせいだ。


「お前、近衛騎士団の任務に参加したんだって? どうだった?」


 私の気も知らない先輩達は、目をキラキラさせながらそんな事を聞いてくる。けれど、今はそれを聞かないでほしかった。

 だって、私に課せられた役目をきちんと果たせなかったのだから。この後事後報告をしてもらえるようだけれど、一体何を言われるのか気が気でならない。


「……一応役目は果たしましたけど……やっぱり近衛騎士団凄かったです」

「やっぱりか~。近衛騎士団入りは目標にはしてるけど、やっぱ難しいよな~。く~羨ましいぜ!! 俺も参加させてもらいたかった!!」


 いや、男性なんですから無理でしょ。とは、言えなかった。極秘なのだから内容は言えないに決まってる。

 それにしても、だいぶスピーディーだった。私が団長様とあのお屋敷に潜入し、別れてから近衛騎士団員の方達二人を潜入させて、あのあとどれくらいの時間が経っただろうか。正確な時間は分からないけれど、本当に速かったと思う。

 第一騎士団が探しても捕まえられなかったところを、こうも簡単に捕まえてしまうだなんて。やっぱり、近衛騎士団は凄い。


「おらお前ら~、4日後から大変なんだから今のうちに気ぃ引き締めておけよ~!」


 とはいえ、4日後に隣国の使節団がこの王城に来訪するだなんて、過酷スケジュールにもほどがある。あの極秘任務はぎりぎりねじ込んだと言ったところか。他国の方々がいらっしゃる前にこの件を片付けたかったようだけど。でも、団長様はさぞかし大変だったことだろう。

 ……それなら、何故一緒にドレスを見に行ったのか聞きたいところだが。

 これから隣国の王女と王太子が来訪するため警備は厳重。だから王城騎士団は大忙しだ。大体4日で帰るらしいから短い方だが、でも気は抜けない。何事もない事を願おう。

 しかも、あの極秘任務前に起こってしまったあの恐ろしい事件も気にかかる。狩猟大会後のナイトパーティーで、元婚約者親子がお父様を首都に呼んでしまった事。両親は、ここ首都よりもだいぶ遠い田舎にいて、ここまで来るのに大体3週間。

 でも、使節団来訪中は避けてくるはずだから、お帰りになってすぐに到着する可能性がある。あぁ、なんて恐ろしい。これでは、どう回避したらいいのか考える余裕なんてものが全くない。

 ……そう、余裕がない。

 ふとした時に思い出してしまう、団長様のあの言葉。


『……――好きだよ、テレシア』


 頭の中に、その言葉が響いてしまう。

 そうなると、仕事の事を脳内に無理やり引っ張り出すしか出来ない。


「おい、どうしたテレシア。顔、真っ赤だぞ」

「……いえ、お構いなく」


 恐ろしい悪魔の近衛騎士団長、のはずだった。それなのに、私に触れる彼はそんな姿は全くない。だから、混乱している中で『テレシア』と甘く呼ばれるのが耐えられない。それなのに、あんな事まで言われたら……

 自覚したくなかったこの気持ちが、溢れちゃうじゃない……

 でも、どうして、私なんかを……? 普通のご令嬢とかけ離れたこんな私を、だなんて……

 それに、そもそも身分が違いすぎる。第三騎士団の騎士団員と、近衛騎士団長。男爵令嬢と、侯爵家当主。到底釣り合わない。

 期待と、諦め。その二つが、私の頭の中で何度も衝突してしまう。

 そんな事を考えている暇なんてないくせに。