騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


「……元婚約者です。今はもう赤の他人ですが」

「なるほど。だが、彼はそのつもりはないようだが?」

「無視していただいて結構です」


 騎士団長様の鋭すぎる視線にこれはマズいと即答したが……お前はそのままそこで大人しくしてろ。いいか、気配を出来るだけ消してそのまま黙ってそこにいろ、いいな。


「あの、もう話は終わったので私は警備に戻ります。団長様も早くお戻りになられた方が……あっ」


 ガシッと私の腕を掴んだ騎士団長様は、笑顔を見せそのままどこかに歩き出してしまい引きずるかのようにして退場させられてしまった。

 ……怒って、らっしゃる?

 どうしようどうしよう、まさかの魔王の到来……!? そんな焦りがにじみ出てしまい頭の中で混乱していた時だった。とある部屋のドアを開けた音がした。俯いていたから分からなかったけれど、それを開けたのは騎士団長様。そして引っ張られてその中に。

 一体どういう……と思っていた時、腕を握っていた手が解けた。安堵したのも束の間、今度は両手首を掴まれドアに押し付けられてしまった。目の前には、騎士団長様。


「〝アレ〟が、君の元婚約者だって?」

「……ハイ」


 凄んだ目で、じっと見てくる。恐ろしすぎて震えあがりそうだ。しかも、アレ、にだいぶ力が入っていたような気がする。

 あんなに会場で騒がしくしたんだから、きっと団長様も目にしたと思う。土下座させられていたし、伯爵の声も大きかったから聞こえていたかもしれない。なら、団長様はあれを見てどう思っただろうか。


「元婚約者、という繋がりがある事すらおこがましい。アレの頭はただの飾りか?」

「えっ」


 騎士団長様のその言葉に、意味が分からなかった。けれど、どういう事だろうという考える時間すら与えないかのように、唇を塞がれた。いつものような……いや、女子寮の、私の部屋でしたような、襲い掛かるようなキスだ。……私を食べようとしている。

 つい口の隙間から声が零れてしまうけれど……身体が強張った。

 ヒールの、足音が聞こえてくる。数人の談話の声も、一緒に聞こえてくる。

 それは、少しずつ大きくなってきている。こっちに、来てる……!?