騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


 鬼団長は、引き出しから二枚の手紙を出してきた。これはお前宛だ、と渡され手に取る。その差出人は……はぁ!?

 声は出すことはなかったけれど、その差出人に顔が固まった。近々手紙は来ると思っていた。けれどこのタイミングで、しかも狩猟大会の警備を抜けさせろと言い出した人物に、鬼団長よりも恐ろしさを感じた。


「マーフィス男爵から、お前を外すよう頼まれたんだ。お前には、狩猟大会の交流会の方に参加してもらう」

「……そう、ですか」


 交流会、という事はまさか、お父様はあの貴族達の中に私を放り込もうとしている事で間違いないだろうか。

 その原因は、きっとこの前の婚約破棄だろう。婚約が破棄されたのだから、相手を探すために社交界に顔を出せと?

 震える手で、私宛の手紙を開いた。お父様の字で、何となく婚約破棄はどうでもいいからさっさと次の相手を探せという圧がにじみ出ているような、そう感じた。

 あの窮屈なドレスを着て、煩いご令嬢達の餌食になれと言いたいのかという文句を言いたいところだけれど……これは、何が何でも相手を見つけなければ命はないような。そんな危機感を覚えた。


「他ならぬマーフィス男爵の頼みだ。聞くしかあるまい」

「……承知しました」


 鬼団長の言いたいことは分かる。うちのお父様は優秀な元近衛騎士団団員だし、田舎暮らしをするために退職届を出した時陛下からどうしてもと言われ騎士という役職だけはそのままにして田舎に行ったという話は団長も知っている。そんな人物にお願いされたら聞かずにはいられない。

 これは……しょうがない、か。

 そして、下がっていいと言われ退出した。

 もし近衛騎士団長とのことがバレてクビを言われてしまったら……と思っていたけれど、大丈夫そう? まぁ、バレたら剣が出てくることは確定したけれど。

 けれど、あの、お父様。何で私宛の手紙を鬼団長の方に送ってるのよ。どうせ私宛にしても隠して鬼団長に言わず警備に参加すると思ったか。……私の事をよくお分かりで。流石親だ。

 こうなってしまえば私が狩猟大会の交流会の方に参加する事は決定事項。狩猟大会では主に男性の方、当主だったり子息だったりといった人たちが参加する。自分達が獲った獲物の大きさに応じてにポイントが付き、多くポイントを取った方が優勝となる。

 そして、その狩猟をしている間に、狩猟に参加していないご令嬢やご夫人達が森の近くで優雅にお茶を楽しみつつ誰が優勝者か予測をする。その交流会の方に私が参加しろだなんて……お父様は正気?

 はぁ、とりあえず準備するために明後日の貴重な休日を返上しよう。貯金はどれだけあっただろうか。

 物欲がなくてあまり使わないから、恐らく間に合うはず。安物のドレスになってしまうけれど、まぁ一目を気にしたらきりがない。それよりも、次また社交界参加を決められてしまう前にこちらが手を打たねばならないからそちらを考えよう。

 またドレスを着てパーティーだのお茶会だのに引っ張り出されるのは絶対に勘弁してほしい。