騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


「可愛い寝顔だったから、起こすのが忍びなかったんだ」


 可愛い、だなんて言葉が出てきてつい驚いてしまった。悪魔の近衛騎士団長様の口から出てくるなんて想像が出来ない。私の知る近衛騎士団長は、冷血無慈悲で、その眼光で人一人殺してしまえるほどの悪魔のはずだった。

 もしかして、この方は別人なのだろうか。

 けれど、一昨日は……何度も、何度もその言葉を囁かれた。女子寮にある、私の部屋で。……ベッドの上で。

 そう思うと、顔が火照りそうになる。


「明日、狩猟任務に行ってくるんだろう。気を付けて」

「ア、ハイ……」


 戸惑いの中、心拍数がどんどん上昇していく心臓の音を聞くしか出来なかった。鎮めようにも、鎮められない。彼に聞かれてしまうのではないかと思うと、焦りが出る。

 どうしたらいいのか分からず混乱している中、いきなり後ろを向かされた。そして、キスを一つ。今までとは全く違う、軽いキスだった。

 目が合わせられず右側に泳がせてしまう。心臓が煩い、顔が熱い。どうしたらいいか、分からない。

 それに、仕事中のはずなのにこんな事してしまっている事への危機感と恥ずかしさが襲ってくる。ここは近衛騎士団長様の執務室。誰か来てしまったら大変なことになる。そうなってしまえばもう私はクビ確定なのでは……?


「職場とはいえ離れがたいが……仕方ないな」


 そう一言言って手を離してくれた。その瞬間我に返り、お辞儀と「失礼しますっ!!」の一言を残してこの部屋を離脱した。

 流石に職場でキスとか……は、恥ずかしすぎる。顔が火照りすぎて、中々冷めない。廊下には誰もいないことを確認すると安堵し、パタパタと手で顔を扇いだ。交代する先輩達が待ってるのに、もたもたしていられない。

 何とか顔の火照りを沈めても、頭から彼の声が消えず周りからヒソヒソと話すご令嬢達の話は全く耳に入らなかった。それを振り切らないと、と内心焦りつつも速足で持ち場に急いだ。

 持ち場には、一緒に待機する事になっているガストン先輩もいて、私が何かあったのか知っているからか同情の目を向けてきた。だったら先輩が行けばよかったじゃないですかと言いたいところだけれど、脳内はそれどころじゃない。

 魔王城での事件を頭の中から追い出すのに必死なのだから。


「お前、大丈夫か?」

「……恐ろしい魔王に殺されそうになりました」


 としか、言えなかった。平常心を保つ事がここまでして難しい事なのかと今だいぶ痛感した。これは、一瞬でも顔に出してしまったら大変なことになる。


「どんまい、これで一つ成長したな」

「……どこがどう成長するんです」


 心臓はち切れるかと思ったのに。死ぬかと思ったのに。先輩方は私を生贄か何かだと思ってるのだろうか。本当に酷い先輩達だ。