騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


 鉛のような身体の重さを感じつつ、近衛騎士団の団長がいるであろう執務室に向かった。これを早く持っていかなきゃ怒られるんじゃないか、という恐怖心を抱きながら。

 けれど、それだけじゃない。近衛騎士団長様とは、今まで2回も顔を合わせている。話もしている。その時の彼の様子と私が聞いている噂が全然違うから、だいぶ混乱している。一体何がどうなっているのか、全くもってよく分からない。いや、彼自身がよく分からないから仕方ないのだけれど……

 とにかく、冷や汗が止まらない。この資料を手汗でびっしょりにしないように気を付けつつ、東棟を出た。

 近衛騎士団の執務室は、騎士団が集まる東棟とは違い本城にある。国王陛下や王妃殿下、王太子殿下がいらっしゃる建物だ。

 そのため当然の事、人が多い。使用人はもちろん、貴族のご当主や、夫人やご令嬢もいらっしゃる。ここの後宮の庭園でお茶会をする者達が多いからだ。あそこはお金さえ支払えば使わせてもらえる。だから見栄を張るご夫人やご令嬢達がよくそこを使用している。


「あら、マーフィス嬢ではなくて?」


 当然、私を知っている同い年のご令嬢達もいる。

 私に話しかけたのは、私と同じくらいの歳頃のご令嬢3人。騎士団の制服を着ている私と違って、煌びやかなドレスを身にまとっているおしとやかな方達だ。

 この3人は会うたびに私に話しかけてくるから面倒な事この上ない。楽しく三人で喋っていればいいものを。


「ダメでしょう、話しかけちゃ。今マーフィス嬢は婚約が破棄されたばっかりなんだから。きっと心が傷付いてるはずだわ。そっとしてあげなきゃ」


 いや、全く傷はついていないが。


「まぁ、それは申し訳なかったわ。ごめんなさいね」


 謝る事は一切ございませんが。


「いえ、お構いなく」


 ……申し訳ないが、ご令嬢やさっきの第二騎士団員達が言うように婚約破棄をして心が傷つくとか、そういう事は一切ない。仕事に追われてしまっていたから、パーティーやお茶会に同行出来ず元婚約者には申し訳なかったなと1mmくらいは思っているけれど。

 でも、元婚約者の為にようやく時間を作ったというのに、愚痴を聞かされるのはどうしたものかと思うが。アイツの口からは愚痴しか出ないのかと心配するほどだった。

 まぁ、婚約破棄となってしまって困る事といえば、お父様が婚約破棄を聞いてどう動くか。これが一番恐ろしいだけだ。