騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!


 団長様は私を連れて貴族達の群がる中に足を進めた。しっかりと手を握り、私の歩幅に合わせて歩く彼は紳士だが恐ろしい地獄に導く悪魔のような方でもあった。

 楽しく談話する貴族達の間をすり抜けると、周りはざわざわと小さく騒ぎ出す。それもそうだ。あの悪魔の近衛騎士団長が、女性騎士の私と手を繋いで歩いているのだから。

 きっと、他の先輩達だって会場の端で警備をしているのだから当然私達を見ている事だろう。後が怖いのもあるけれど、それ以上に怖いものが沢山あるのだからそんなものは後だ。


「陛下方の方へ行こうか」

「……」


 この方は一体何を思っているのか恐ろしくて仕方ない。一体陛下方にどうご挨拶をなさるおつもりなのだろうか。団長様は何度も陛下方と顔を合わせているだろうけれど、私はつい最近狩猟大会でお話した程度。これも事前にお伝えしていただきたかった。


「ご機嫌麗しゅう、国王陛下、王妃殿下」

「ご機嫌麗しゅう……」


 陛下と王妃殿下は会場に設けられた椅子に座っていらっしゃる。少し離れた目の前に立つ私達に、一体何を思っただろうか。先ほどまでそばに立っていた近衛騎士団長と、会場の端で警備をしていたはずの王城騎士団員が仕事をせずに今目の前にいるなんて。

 とても恐ろしくてならない。つい、視線を下ろしてしまう。


「あらまぁ、この前はドレスだったけれど、騎士団の正装もとっても似合っているわね。素敵だわ」

「……光栄です」


 王妃殿下に視線を向けると、とてもにこやかだった。けれど、以前の血飛沫の付いたドレスでご挨拶した時は、本当に申し訳なかったと気まずくなる。

 そして、恐る恐る視線を王妃殿下から国王陛下に移すと、つい素っ頓狂な顔をしてしまった。

 何故、そんなにニコニコと笑っていらっしゃるのだろうか。


「いきなり席を外すと思いきや、彼女を連れてきたとは驚きだな。なぁ、近衛騎士団長?」

「私もそろそろ身を固めたいと思っていましたので、連れてまいりました」

「ほぉ、なるほど」


 だいぶピリピリした会話ではあるけれど、陛下のにこやかな表情と、普段は全く見せないらしい近衛騎士団長の笑みに周りはざわざわとしているのが聞こえる。