神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

水干をまとい男装しても、その愛らしさは隠せるものではなく、そんな瞳子に対し双真は比喩(ひゆ)でなくめまいがする。

(なんで瞳子はこんなに可愛いんだ)

いつか自分に微笑みを見せてくれる日がくることを切に望んだ当初が、まるで嘘のようだ。

(結局──“影”に入らせることはできなかったな)

険しい山道でもあるのだから、ジンを瞳子に憑依(ひょうい)させる“眷属”の護り方──“影”に入ることを命令するのが筋だろう。
だが双真は、それをせず地脈にもぐらせて対象である瞳子を護らせる“隠行(おんぎょう)”という方法をとらせた。
……ひとえに、瞳子とジンの『同化』を黙認できなかったのである。

「でも……確かに、この斜面は土砂崩れの心配があるね」
「そうだな。何か、対策を考えてやらないと里の者らも困るだろうな」

国府(こくふ)”からの報告書によると、ここ菊久麻では雨季に何度も土砂災害に見舞われているようだった。
おかげで、稲作や畑への影響も多々あるという。

「あじさい……」
「アジサイ?」
「うん、紫陽花(あじさい)。……分かる? こんな、青とか赤紫色の小花が密集した手毬(てまり)みたいな花が咲く植物なんだけど」