神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

真意がつかめず眉を寄せる“主”に、イチは従者としての笑みを浮かべた。

「では、しばしのお(いとま)を頂戴いたします」

髪結いの“呪”を解き放ち、そうしてイチ──朔比古(さくひこ)は“常世(とこよ)”へと旅立ってしまった。

あとに残された双真は、唯一の愚痴吐き所を失い、途方に暮れる。

(……さすがに、このままじゃマズいだろうな)

思いつつも、双真のなかで割り切れないものは、ジンの“眷属”としての処遇だった。

【瞳子のための】“眷属”として呼びつけたにも関わらず、未だ双真は、はっきりとジンに彼女を護れと言いきれていないのだ。

(腹をくくるしか、ないな)

ままならない己の心を断ち切るように、双真は立ち上がる──今日も引き続き、瞳子と共に視察に出かけることになっていたからだ。



「……ね、ジンさんって、いま一緒に来てるんだよね?」
「ああ。……ジンは、瞳子のための“眷属”だからな」
「そっか。ふふ、なんか、変な感じだね」

今日ふたりが訪れたのは、山間(やまあい)にある集落で菊久麻(くくま)という地であった。すぐ側には川が流れているようで、せせらぎも聞こえてくる。

くすぐったそうに笑って、瞳子が双真を見上げてくる。高い位置で結んだ黒髪が、さらりと揺れた。