神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

村長が鼻で笑うのと、双真が鋭く訊き返すのが同時だった。

「あ、あっちの林ん中だ!」
「分かった。……瞳子は、ここで待っていてくれ」

言うなり走りだす双真の背中を、瞳子は一瞬、追いかけたい衝動にかられたが、かろうじて自らを押しとどめた。

(私が付いて行ってできることはない。それなら───)

「皆さんは、家の中に入って身を隠してください。……誰か、逃げ遅れたりした人はいませんか?」

わらわらと老若男女、何人かが集まって不安そうに肩を寄せ合うなか尋ねれば、誰もが首を振って否定する。

「あれ……(たつ)じいは?」
「……一緒だったのかい?」
「枯れ木、拾いに林に行くって……」

ところが、一人の中年の男が口をひらいたとたん、村人の間に不穏な空気が広がる。
瞳子は、うなずいた。

「解りました、私が知らせに行きます。皆さんは、早く家の中に隠れて」
「えっ。けど、アンタだって危険だろ」
「大丈夫です。こう見えて、いろいろ心得があるんで」

心配して止めに入る村人たちに笑ってみせ、瞳子は林へ向かい、駆けた。

(最悪、私には“赤比礼(せきひれ)”がある……)

熊から受ける攻撃も、防いでくれるはずだ。
防御手段を確保していたため、先ほども双真を追いかけたくなったのだ。