神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「柵は……廃材のようだな。竹は使わないのか?」

素人の瞳子が見ても、頼りない造りの畑の囲い。鹿威(ししおど)しなどもない。
これでは、野ねずみやイタチなどの小動物はおろか、野犬にも荒らされるだろう。

「え? ああ、いや、この辺りに竹を調達できるところがなくて……」
「そうか。ならば、俺のほうで手配しよう」

親身になって聞いている風ではあるが、矛盾に気づくと警戒させずに修正をうながさせる。

「あ、ああ。そうしてもらえると、助かる」
「材が変われば、強度も変わる。竹は、罠にも使えるしな」
「た、確かに」

(……怠慢で害獣を放置してたってことかな?)

双真とのやり取りから、それが窺える。
瞳子は内心で苦笑しながらも、記録として気づいたことも書き添える───事前に、双真からも何かあれば記しておいてくれと言われたからだ。

その後、村長の案内でいくつかの集落も同様に見てまわる。
やがて日没も迫ってきたため、今日はこの辺りにしておこうかと、双真が瞳子に話していた時だった。

「た、大変だ! く、く、熊が、出た!」

まろぶように村長のもとへ駆けてきた男と、遠くで聞こえる複数の悲鳴。

「は? 馬鹿いうな、この辺りに狼ならともかく、熊なんざ出やしねぇだろ」
「……それは、何処だ?」