神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

瞳子は、矢立(やたて)という檜扇(ひおうぎ)型をした携帯用の筆記具で、巻かれた和紙に双真と村長のやり取りや、畑の現状を記していく。

その間も、双真は辛抱強く村における人の出入りや生活状況、納めている収穫物の内容と実際の差異がないかを訊きだしていた。

(なんか……こういうの慣れてるよね、双真って)

萩原(はぎはら)家で、当主として領地を治めていたからだろうか?
愚痴を聞いてやりながらも、しっかり自分の知りたい情報も訊きだすのは、相手の懐に潜り込むのに長けているからだろう。

居丈高な振る舞いではないが、かといって()びるような物言いもしない。
“国府”の下級役人であることを適度に示しながらも、対等な立場であることもくずさなかった。

(下っ端だ、みたいに双真は言ってたけど……)

実際は、衣服の仕立てからしても、身分としては上になるはずだ。普段着ているものより質は落としてはいるが、それでも村人との格差は否めない。

(やっぱり私、双真の偉ぶらないところ、好きだな)

立場の弱い者にほど、丁重に接している気がする。礼儀と節度をわきまえているといえばいいのだろうか?

(そうなると、双真のイチに対しての態度って、甘えだろうな)

悪友のような、兄弟のような。瞳子からは、主従関係というより、そんな気安い間柄に見える二人だ。