神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

傍らで、ひざをつき着替えを手伝っていた桔梗が、心配そうに瞳子を見上げてくる。

「───瞳子さま? (さらし)が苦しいようでしたら、ゆるめますが?」
「えっ……ううん、大丈夫!」
(いけない! これから大事な視察に行くのに)

頭を切り替え、瞳子は桔梗に確認をした。

「自分では解らないけど……男っぽく、見える?」
「はい。瞳子さま本来のお美しさは隠せませんが、セキ様にイチ殿が付いていたことを思えば、大丈夫かと」
「……えっと……それなら良かった。あと、ありがとう」

桔梗のような正統派の美女から正面きって褒められると、なんだかこそばゆい。
瞳子は素直に礼を言いつつ、姿見に自分を映す。

桔梗の言う通り、髪をひとつに束ね、浅葱(あさぎ)色の水干(すいかん)をまとった瞳子は、遠目に見れば痩せ型の若い男に見えるかもしれない。

(こっちの服って、もともとあまり身体の線は出ないしね)

それでも念の為、布を巻いて胸板を作ってはあるし、ひと目で女だとは解りにくいだろう。

双真いわく、

「瞳子の容姿は人目を()くからな。女の装いより男の格好をしているほうが、いらぬ災いも引き寄せないだろう」

ということで、破落戸(ごろつき)対策のためだ。