神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜


      《十二》

小鳥のさえずりが、さわやかに朝を知らせていた。

「───それで? 早朝からお二人そろって、私のところにお越しになられたというわけですか」

だが、就寝中であった彼にとっては、不快な訪れであることは確かだろう。
(まじない)”の(ひも)から開放されている黒髪は乱れ、頭に生えた獣の耳が不機嫌そうにピクピクと動いている。

(……まぁ、気持ちよく寝てたところを叩き起こされれば、こうなるわよね)

舌打ちしそうな勢いで言われ、ややひるむ瞳子とは対照的に、すでに身支度を整えすっきりとした面持ちの双真の眉が寄せられた。

「前置きはいい。コレが何か、お前は知っているのかを訊いている」

瞳子の手の内に、突如として出現した紅い玉。宝石の珊瑚(さんご)のようにも見えるが───。

「ゆうべは、随分とお励みになられたようで」
「イチっ」
「……はい、失言でした、申し訳ありません。はぁっ……こんな寝起きじゃ、思ったこともつい口から出ますって。
それで───ああ、この(たま)。すごいですね、瞳子サマ」

一瞬、双真とは違い、イチの揶揄(やゆ)にピンと来ないでいたが、一拍遅れの羞恥心に頬が熱くなる。
そんな瞳子を言葉とは裏腹に、無感動な様でイチが見てきた。

「私も文献でしか知らなかったもので、実物は初めて見ましたよ」