神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「実は、輝玄殿からの許可を得て、この“上総ノ国”を明日から視察して回ろうかと思っていた。
もし、瞳子が嫌でなければ」
「行く! 私も一緒に行きたい! ……あ、もちろん、アンタの邪魔にならないように気を配るわよ?」

双真の提案に喰らいつき、否やを問う前に了承する瞳子。双真は、噴き出した。

「ああ、瞳子が邪魔になることはない。むしろ、同行してくれるのは有り難い。
気がかりがあるとすれば、オレたちはまだ“宣下”を受ける前の身分だからな」

“上総ノ国”の赤い“神獣”と、その“花嫁”であることの正式な地位の認可を受けてはいない。
よって視察中は、ただの『人』であり、“国府(こくふ)”に仕える役人の、そのさらに下っ端という立場になる。

そんな不安定な肩書きでの視察だ。不便や、場合によっては厄介者扱いもされるかもしれない。気分の悪い思いもするだろう、と。

念の為を思い双真が忠告するも、瞳子は一笑に付した。

「私、こう見えても接客十年以上やってきたんだから。対人スキルはそこそこ高いわよ?」
「……ん、そうだったな。ランニングが趣味なくらいだから、体力にも自信あるだろうし」
「……ちょっと、なんで半笑いなの?」