神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「……双真。あ、イチも一緒だった? じゃ、桔梗さんに言って(さかずき)増やしてもらうね」

酒器の載った盆を手にした瞳子が、ひょっこりと双真の部屋に顔をのぞかせた。
すかさず、イチが立ち上がる。

「いえ、お構いなく。私の用は済みましたので、あとはお二人でどうぞ」

素っ気なく瞳子には片手を上げてみせ、そのくせ双真を振り返った顔には気を利かせてやったぞと書いてある。

(顔はムカつくが、その気遣いはありがたくもらっておくか)

「ああ、話はもう済んだ。下がっていいぞ、イチ」

一礼して立ち去って行くイチを見送る瞳子を見上げた。
少し目もとが腫れぼったい気がするのは、昼間の涙の影響か。湯に浸かったことにより、多少は気持ちも楽になってきてはいるだろうが──。

「……アンタと、話したいことがあって。桔梗さんに口実つくってもらっちゃった」
「……そうか」

肩をすぼめて微笑む顔がいじらしい。
軽くうなずいてみせ、側に座るようにうながした。
互いに酌をし合って、盃に口をつける。

蒼白く、室内を照らす月。しばらく無言のまま酒杯を(あお)っていたが、虫の音が途絶えた間で、双真は口をひらいた。

「瞳子。……髪に、触れてもいいか?」