神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

ふいに思いだしたのは、双真の浅慮で振り回してしまった二人のこと。
体外的には盛大な祝言を挙げることは無理だろうが、それでも可能な限り祝福はしてやりたかった。

血縁にない『弟』のことを想う双真の耳に、イチの「そうですね……」という少し考え込むような相づちが入ってきた。

「“禁忌”の番人らしきなされようも、顔と腕に刻まれてたっていう文様も、気になりますしね」

言って、双真に向かい、引き受けたという面持ちでイチがうなずいてみせる。

(じん)が合流次第、ちょっと常世(とこよ)に行って来ます。時間はかかるとは思いますが、探れるだけ探って来ますよ」

「悪いな。……しかし、刃のヤツ、どこにいたんだ?」

「それが、聞いてくれます? あの猫、猫のくせに奥州の山奥で鮭獲ってたんですよ? クマかよってツッコんでやったら、『寒くなってきたから妙子(たえこ)にコレ届けたら南の方へ行く』とか抜かしやがったんで、【鈴】つけておきました。
ま、妙子が不憫(ふびん)なんで、ひとしきり兄妹水入らずしたら、此方(こちら)に来るかと」

双真は、イチの報告に思わず失笑した。

「……相変わらずのようだな」

【鈴】というのは、おそらく、刃を双真のもとに強制的に来させるための、“(まじない)”の一種だろう。