神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「それとは別に、貴方が気にされてた“上総(かずさ)ノ国”の実情をまとめた物です。……まぁこれは、輝玄殿を始めとする官人側からの『実情』でしょうけど」
「ああ、参考にはするが、実際に見て歩くつもりだ」
「それがいいでしょうね」

積まれた報告書の束を受け取り、文机(ふづくえ)に置く。
下総(しもうさ)ノ国”同様、大国ではあるが、実情は見てみないと解らないだろう。

「オレの『弟』の件、お前のほうでなんとか探れないか?」

煌いわく、(あま)ツ神に関わるので迂闊(うかつ)に話せないという、双真の“神獣”としての『弟』の現在。
互いに、兄弟の自覚はないうちに離れ離れになってしまってはいるが、【ああいう再会】では、双真としても寝覚めが悪い。

(瞳子も気にしてたしな……どういう事情で“禁忌”の番人のようなことをしているのか、オレとしても把握しておきたい)

神のあいだに人のような『血縁の情』はない。生まれの(いわ)れはあっても、そこに親愛も信愛もないのだ。
個々として成長し、おのおの、授かった“役割”のもと神として在るからだろう。

虎次郎(こじろう)のほうが、よほど『弟』に思えるしな)

血の繋がりより、共に過ごし苦楽を共有したからだろうか?

(オレが心配する義理じゃないが、実緖(みお)と上手くやってるといいんだが)