《十一》
予想はしていたが、やはりそう来たか。
双真は、イチこと朔比古を通じての“神獣ノ里”の長、煌からの返答を聞き、深く息をついた。
そんな“主”の様子をものともせず、黒髪の従者は、すみませんねと軽い調子で応じてみせる。
「あの当時、私もそこまで関心をもっていなかったので。ただ、“花嫁”は無事に迎えられていたようですよ。
もっとも、仮のままであっただけに、元の世界に還されたとも聞いていましたが」
「……“花嫁”を置いて出奔したのか」
庭先から奏でられる虫の声は、三重楽ほど。月がさやかに照るなか開け放った障子戸のせいか、室内にその音を響かせていた。
「……兄弟そろって、なかなかに非道なことをなさいますよね」
“花嫁”だからと無条件に愛しいと思える訳ではないのか、と。やや複雑な胸中となっていると、イチから揶揄が投げつけられた。
双真はムッとして、名ばかり“眷属”をにらみつけてやる。
「オレとの比較はおかしいだろ!」
「一緒ですよ、傍から見れば。
……ちなみに貴方、そこに白狼様の“花嫁”を略奪した横暴な“神獣”っていう扱いも、入ってますからね?」



