神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「え……?」
「あなたが彼……赤狼さんと過ごしたのと同じ月日を、僕と共に過ごしてください」
「そんな急に、なに言い出して」
「だって僕たち、この世界でたった数時間しか一緒にいられなかったじゃないですか。そんなの、不公平ですよね?」

たたみかけるような申し出に、一瞬、とまどいもした。
だが──。

「あんたは、勘違いをしているわ」

瞳子はあえて冷たく言い放つ。
……もう、どこにも、自分のなかに『樋村』に対する想いは、なかったから。

「もし、あんたがただの『白狼』だったら、不公平だって訴えるのも、理解はできる。
けど、あんたは……『樋村』として、私を喚んだのよね?」

にらむように見据える先、白狼の顔が強張った。

「私と、あんた───樋村の関係は、もうとっくの昔に終わってるのよ。あんたが、私を手放した時に。
それが……たとえ私を想っての優しさだったとしても……そんなのは、私が欲しかった優しさじゃない!」

強く、叩きつけるように放った言は、樋村が瞳子を想った事実をも否定するようなものだ。
それが解っていながら、瞳子は自分の思いを口にださずにはいられなかった。

「人によっては、あんたの優しさを尊いと評価するかもしれない。確かに、自分のことより他人の幸せを願えることは、美徳だと私も思う。でも」