神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

言葉を選んで伝えることも考えた。しかし、それが果たして白狼に対して誠実であるかといえば、そうではないだろう。

ましてや、この会話を廊下で聞いているだろう双真にも、顔向けできない気がした。

「誤解させたのなら、申し訳ないけど……。
バレッタは使い勝手がいいから、ずっと付けてただけよ。
あんた忘れてるかもだけど、裕福な生まれじゃないの、私。たとえ自分を裏切った人間に買ってもらったものでも、使えなくなるまでは、大事に使うわ」

瞳子は、きゅっと唇を引き結んだ。思いきって、告げる。

「樋村に、気持ちが残ってた訳じゃない。物には罪がないと思って、捨てなかったの。
……もっとも、私を裏切ってたっていうのは、あんたの嘘だったみたいだけど」
「僕のこと、忘れないで欲しいって、思ってました」

瞳子の言葉尻をとらえるように、白狼が口をひらく。

「あなたに幸せになって欲しいと願うのと同じくらい、僕のこと、忘れないでいて欲しいって」

そこで、何かをこらえるように白狼は押し黙った。ややして、その何かを振り切るように、ふっと、笑みをこぼした。

「だから……僕に、もう一度チャンスをくれませんか?」