神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「どうせ生まれ変わるのなら、僕は人に……あなたと同じ人間として生まれ変わりたかった。もう一度、あなたと出逢い直したかった」

青みがかった灰色の瞳が瞳子を映しだし、哀しみに揺れる。

瞳子は、わずかに目をそらした。
その眼差しにこめられた想いに応えられる自分は、どこにもいなかったから。

「人間(ひと)になりたい思いが“神獣”としての僕の成熟を早めたようで、他の“神獣”よりもずっと早くに“化身”を覚えました」

そして、そんな彼に目をつけたのが貝塚保平だったという。

“神獣”として、また、転生者としての疎外感から、この世界にも住人にも慣れることがなかった彼に、親身になって接してくれたそうだ。

「あなたを“召喚”しようと、言ってくれたんです。あなたの名前、歳、家族構成や友人関係……とにかくあなたについての情報を保平は欲しがった。
結論からすれば、あなたは僕の“花嫁”にふさわしく、必ず、こちらに喚(よ)べるはずだとも」

保平の言葉通り、瞳子がこちらに───自分の元へ来てくれた。これでまた、瞳子と一緒にいられると樋村は思ったそうだ。

「あなたは僕の真実(ほんとう)の名前を【すでに知っている】。僕たちには【他にはないつながり】があって。
『試練』も難なくこなして、あなたが僕の真の“花嫁”となるのは時間の問題だろうって、言われました」