神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

懐からイチが取り出した、布にくるまれたもの。見つめる瞳子の前で、イチの指先が包みを解くと、中から見覚えのある物が出てきた。

「これ、私の……」
「やはり、貴女の髪飾りでしたか。これは白狼様がお持ちになっていた物ですが、ここに付いた髪を保平が貴女単独で転移させる“呪”に使ったようです」
「えっ……」

瞳子は、気色悪さに眉をひそめた。自分の身体の一部分が、そんな風に悪用されるとは。

「ご不快でしょうが、ご辛抱いただいて───その上で、私はもうひとつ、大事なことをお伝えせねばなりません」

イチの眼が、まっすぐに瞳子を射貫いた。瞳子の真意を、見逃さず捉えようとするかのように。

「白狼様いわく、これは、自分が貴女に贈ったものだとのこと。
……この意味をご理解いただけたのなら、白狼様は、貴女と直接お会いして、話がしたいと、そうおっしゃっておられました」

瞳子は、イチの話すことが、一瞬、理解できなかった。

(だって、これ……この、バレッタ……)

それは、かつての恋人であり、そして、いまは亡き───。

樋村(ひむら)が買ってくれた、やつじゃんか……)

決別したはずの過去が、瞳子を“陽ノ元”まで追いかけてきたのだ───。