神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

瞳子はすでに白狼の真名を知ってしまい、なおかつ口にだしてしまった。
保平の命を奪った、双真にそっくりな男のことも気になるが、それと同じくらい“禁忌”の代償も気になるところだ。

「ねぇ……私って、やっぱり、殺されちゃうの……?」

あの場は双真が瞳子をかばうことによって、一時的に罪を見逃されただけで、後々、正式な沙汰でも下るのだろうか、と。
不安に思い、瞳子は双真とイチを代わる代わる見つめる。

いや、と、双真がきっぱりと首を横に振った。

「イチとも話したが……あの時の『口を封じろ』の意味は、瞳子に白狼殿の真名を、二度と口に出させないようにしろという警告だと思う」
「間違いないですね。保平と違い、貴女はセキ様の正式な“花嫁”であるうえに、そもそも“神籍(しんせき)”にある御方。
只人という括りには入りませんからね」

というわけで、と、イチが自らの髪結いの“呪”を解き、本来の姿に戻る。赤い(まなこ)で瞳子を見据え、双真の真名を赤い布で見た直後のように、白狼の名を口に出さないように暗示をかけてくれた。

「じゃあ……白狼は今回の件には関わってなかったって、こと?」
「そのようです。正確には、利用されていた、というのが事実のようですね」

イチの目が、何かを問うように双真に向けられ、双真もまたそれを了承するようにうなずいた。

「瞳子サマ、これをご覧いただけますか?」