神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

実は、セキにとって『供養』とはあまり身近なものでなかった。

“陽ノ元”においての『死』は(けが)れとされ、限られた者のみがその務めを行うことであり、こちらのように気軽に『墓参り』などすることはなかった。
そのため、瞳子の見様見真似で桶に汲んだ水をやり、花を手向(たむ)け、線香を上げた。

セキがとまどいながらそれらを行う間、瞳子は墓石に刻まれた文字を読み、何かを確認していた。

「……さよなら、樋村」

去り際の、ぽつりとこぼされた瞳子の言。
高く澄んだ青空の下、乾いた風にまぎれるように細く、憂うというよりは(むな)しさを感じるほどに、力のない声だった。



「セキ。少し、話をしても、いい?」

と、瞳子に訊かれたのは、こちらの時刻でいえば夜の九時すぎ。
本来であれば、夜分で湯上がりの彼女を部屋に招き入れるのは、いろいろとまずいことだった───セキの理性的に。

けれども、日中の樋村の一件から、瞳子が一人で何かを考えているのは当然のことであったし、セキのほうも、あえて瞳子から彼とのことを聞きだそうとは思わなかった。

(イチや妙子(たえこ)に言わせれば、こういうところがオレの意気地(いくじ)の無さなんだろうな)