女子校でもファンだっていう女の子がいっぱいいた人気アイドルグループの赤色担当、近松遊馬くん。
軽くてノリのいい男の子、っていう話はファンの子から聞いたことがあるけど……。
想像以上にチャラい!
ぜったい目を合わせちゃだめだ、と思って、わたしは視線を落としながら遊馬くんが通りすぎるのを待った。
「ごめんね~、通るね。……あれ? 仔猫ちゃん、いいにおいがするね」
わたしの前に足が見えるし、わたしの前から声が聞こえるんだけど、これはわたしに話しかけてるわけじゃないよね……?
「あまいにおい……」
こっちに向かって伸びてきた手が、パイプイスの背もたれをつかむ。
わたしの前に影が落ちて、オレンジみたいなにおいがふわりと香った。
くん、とにおいをかぐ音がせんめいに聞こえるのは、遊馬くんの顔がわたしの首筋に寄せられたから。



