「ねぇ、このちゃん。帰りにさ、理事長室行こうよ」
「えっ?」
「みなさん、おはようございます」
とつぜんなにを言われたのかと、思わず遠野くんを見てしまう。
ほおづえをついて、思いっきりわたしに顔を向けている遠野くんは、「やくそくね」とゆるく唇のはしを持ち上げた。
ととのった顔をしているだけに、ドキッとせざるをえない。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「はい、しずかに」
「あ……!」
先生に注意されて口を閉じると、遠野くんは熱に浮かされたような視線をわたしにそそぐ。
「僕は塁。塁って呼んで。このちゃんはとくべつだから」
とくべつ……!?
先生が話し始めたことで中断された会話は、わたしにもやもやだけをのこした。



