処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

《アンリエッタ。悪いけど僕に少し力を分けてよ》
「力ってなに? 分けるってどうやるの?」
《僕を手に置いて、じっとしていてくれればいいよ》

 そう言えば、とアメリは昔のことを思い出す。
 出ることを許されない薄暗い部屋で、母親はよく、手をお椀のようにしてパペットを乗せていた。
 今思えば、あれは巫女姫の力を精霊に分け与えていたのだろうか。

(私はフローの姿がしっかり見えるわけじゃないし、母様のようにはできないけど……)

 アメリはパペットを抱きしめ、願った。

(元気になって。この子を助けて……)

 すると、体の中からなにかが吸い出される感覚があった。

《わっ。わあ》

 フローは素っ頓狂な声を上げ、手の上で起き上がった。

《すごいや、アンリエッタ。僕、起き上がれるようになったよ》

 やはりなにかしらの力は奪われているのか、アメリには脱力感が残った。
 それでも、目の前で飛び跳ねるパペットがうれしそうに見えて、アメリの心も和んだ。
 しかしそれもつかの間、外からすごい爆音がした。

「きゃっ、なに?」

 ピリピリと震動が伝わって来て、アメリは身を震わせる。

『あれ、火柱か? ……ルーク様か』

 外からの声は、レッドメイン王国の兵士のものだ。
 アメリは小声でフローに耳打ちする。

「誰か来たみたい。見つかったら、私、殺されちゃうわ」
《ああ、とりあえず隠れよう。こっちだ》

 パペットが宙に浮いたまま、貯蔵庫の奥まで動く。

《ローズマリーがいた部屋は、ここより地下にある。あそこに、明り取りの窓があったのは覚えている? 明かりを外から取り込み、反射させて送るために、この下に狭い空間があるんだ。君なら細いから多分入れる》

 上に合った木箱をよけると、床に跳ね上げ式の小さな扉があった。アメリくらいの細身の女性がやっと通れるくらいの大きさで、その下に広がる空間は、立ち上がることができないほど狭い。でもしゃがみこんでいれば隠れることは可能そうだ。
そこに滑り込むと、フローはそっとささやいた。

《通り過ぎるのを待とう》
「ええ」

 やがて、どたどたと足音が近づいてくる。扉の開いた音に、冷たい汗が出てきた。

「ここは?」
「見張りの塔のようだな。上を見てこい。ここは俺が確認する」