処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

「ど、どうすればいいの?」
《君……、アンリエッタか?》

 驚きの声と共に、アメリの手の中で、パペットが顔を上げる。刺繍された目とアメリの目が合う。

《僕だよ、フロー》
「フロー? フローちゃんがなんで勝手に動くの?」
《君、僕の声、聞こえるようになったんだね。大人になったからかな》

 驚きすぎて放心してしまう。だってアメリにとって、フローは母が動かしている空想上の生き物だったのに。

《この姿は、ローズマリーがごまかすために作ってくれたものだよ。本当の僕はこれ》

 パペットのお腹の部分から、光だけが移動して宙を舞う。

《見える?》
「光だけ……」
《そっか。僕の力が弱っているからかな》

〝巫女姫は精霊と交流することができる〟

 アメリが使用人の子たちと学んだ城の学習室で、教わったことだ。
 ということは。

「……母様は巫女姫で、フローが精霊だったの?」
《そうだよ。でも、僕、今はあんまり力がないんだ。ローズマリーもいないし、精霊石もないから》
「精霊石って?」
《昔、そのパペットに縫い付けてあっただろ?》

 胸に縫いつけられていたフローライト。

「あれが、……精霊石だったの?」
《そうだよ。でもローズマリーが死んだあと、公王に奪われた。あれは精霊の力を凝縮したものなんだ。巫女姫がいない今、あれが無いと力が出せないんだよね》
「フローライトが変色するようになったのはそのせい?」
《精霊石が無いことだけが理由じゃないけど、一端ではあると思う。僕の加護が弱まっている今、悪しき力を押さえることはできないから。まずは僕が力を取り戻さないと鉱業の復活は難しいよ》
「そうだったの……」

 なんとなく理解はしたが、今まさに滅亡しようとしているときに、そんなことを知っても、アメリできることはなにもない。