名倉先輩のことは警戒しつつも気にしないように振る舞った。

 女の子を体でしか見ていないクズだったなんて、話してもみんなには信じてもらえそうにないから。

 だから、とにかく名倉先輩と二人きりにだけはならないようにと気をつけた。

 でも、部室内で事情を知っている人がいない以上、私と名倉先輩を二人きりにしないように気遣ってくれる人はいなくて……。

 だから、みんなが早く帰ってしまったある日、運悪く二人っきりになってしまった。

 直前まではリエ先輩もいたんだけれど、いなくなってしまったし……。

 リエ先輩が部室を出て行く際、少しだけ私を見た目には哀れみの色があった。

 この状況、嫌な予感しかしない。

 私は作業が途中だったけれど、急いで帰る準備をした。

 荒く片づけて、カバンを手に取ろうとしたとき――。


「奈緒ちゃん、ちょっと話をしようか?」


 普段と変わらない声で、名倉先輩が私を呼び止めた。


「あ、すみません。急いでるので」


 顔も見ずに断って、カバンをギュッと掴む。

 そのまま出て行こうとしたのに、ドアに向かう途中でカバンを持つ手を掴まれた。


「なに? 俺に食われちゃうと思った?」

「っ!?」


 図星を突かれて驚く。

 確かにその通りだけれど……名倉先輩は私が彼の本性を知っていると知らないはずじゃあ……。