「よっ!愛華さん」


「つ、椿くんっ?!」


 とある日の昼休み。


 いつもはお弁当を持ってきている愛華ではあるが、その日は寝坊してしまいコンビニに寄ることすらできなかった。仕方なく購買にやってきた愛華だったのだが、その混みように圧倒され呆然と立ち尽くしていたところである。そこに急に顔を覗き込むように椿に声を掛けられて、愛華の心臓は飛び上がった。


(急な好きな人の登場…!心臓に悪いっ)


 自分の心臓を心配しつつも、嬉しさいっぱいの愛華である。


「愛華さんも購買?」


「う、うん!今日はお弁当作り損ねちゃって。購買って結構混んでるんだね」


 どうしたもんかと途方に暮れていたところである。パンが売り切れてしまう前にぐいぐい前に行くべきなのだろうが、その積極性が愛華にはない。


「毎日こんな感じかもなー。愛華さんの分も買ってこようか?」


「え!いいの?」


 悪いとは思いつつ、椿の申し出は大変有難かったので、愛華はお願いすることにした。


「お願いします!なんのパンでもいいので」


「おっけ」


 椿はあっという間に人だかりの中に消えると、さっさと会計を済ませて戻って来た。


 「お待たせ!」と言って愛華の元に帰ってきたが、全く待っていない。


「愛華さん、何が好きか分からないから、ひとまず色々買ってきた」


 椿の手にはカレーパンやコロッケパンなどの総菜パンに加え、りんごデニッシュパンや、メロンパン、焼きうどんや焼きそばまであった。愛華が何かしら食べられるものがあるようにと、多種多様なパンを買ってくれたようだ。


 その中から愛華は、チョコチップメロンパンと、クリームパンを貰うことにした。


 残ったパンや麺類を見ながら、愛華は不安げに椿に問い掛ける。


「これ、あとは全部食べられそう?」


 愛華のためにいつもより多く買ってしまったのではないかと思ったのだが、椿はにっと笑うと「余裕!」とVサインを出した。運動部であるし、食べ盛りの男子高校生である。これくらいは余裕のようだ。愛華はほっと安堵の息をつく。


「あ、お金払うね」


「いいよ、二つくらい。愛華さんって甘い物好きなんだ。この前もドーナツ美味しそうに食べてたもんな」


 愛華の胸に抱えられたチョコチップメロンパンとクリームパンを見ながら、椿は言う。


 この前、とは休日に偶然会った日のことだ。愛華がドーナツを頬張っているところを、椿に見られていたようだ。


(は、恥ずかしい…)


「つ、椿くんは甘い物より、麺類が好きそうだね」


 愛華も同じように椿の抱えるパン類を見る。


「麵好き!甘い物も好きだけどな」


 そう言って笑う椿に、愛華は胸を高鳴らせる。


(椿くんと話してるとどうしてこんなにも楽しいんだろう。ドキドキするけど、心地よさも感じる)