「なんだよ、うるせぇな。せっかくいいところだったのに」

 あやかし王は、雲の上から釣り糸を垂らしていた。

「え、ここって何か釣れるのですか?」

「釣れるわけねぇだろ、タコ!」

(え、じゃあなんで釣り糸を垂らしているのですか。それに僕はタコじゃなくて、どちらかといえば(からす)……)

 あやかし王の暴言に、男は不満を心の中で口にしながらも、釣りを邪魔されて苛ついている様子なので、怖くて発することができなかった。

 あやかし王は正統な王家の生まれで、生粋の特権階級最上位者だ。

 幼い頃から次期王としての教育を積まれ、気品を身に着けたが、なにがどうしてこうなったか、口がすこぶる悪い。

 傍若無人で我儘放題の暴君だった。

大王(おおきみ)様がお呼びです。今すぐ戻られた方が宜しいかと」

「ったく、面倒くせぇな。どうせ世継ぎだの妃だのと小言を聞かせられるだけだろ」

 あやかし王は立ち上がると、釣り竿を男に預けた。

「ここ最近、大王様の容態が(かんば)しくないですから、早くお世継ぎを見て安心したいのでしょう」