腹黒王子とめぐるの耽溺日誌

「ご、誤解です!なんにも変なことしてないですって!!」


「貴女がなにを言ったかは関係ありません。雅様の機嫌を損ねてしまった、ただそれだけです」



重い鉄の扉まで腕を引かれると、乱暴に扉の向こうに追い払われた。


「雪平様、お引き取りください」


「黒北さん!!」


「お引き取りを」



私を冷めた目で見ながら、念を押す様に言葉を紡ぐと、黒北さんは再び鉄の扉の向こうに戻って行った。


「な、なんなの……」


理不尽だ。少なくとも、ここまで酷い扱いをされるいわれはない。

あまりにも酷い対応に段々と腹の中が熱くなっていくが、不意に腕に付けられた見慣れない物に目が止まる。


「腕時計そのまま持ってきちゃったな……」


なにが原因であんな怒ってたのかは分からないけど、返した方が良かった気がする。

かと言って、今更もう一度ここのインターホンを押す気にはなれないが。

捨てるにはあまりにも勿体ないし、売るのも流石に気が引けるので、仕方なくそのまま腕に付けている事にした。


(時間が空いたらまたここに返しに来ればいいし…)


あの時の隼瀬君の顔を思い浮かべながら、腑に落ちないなぁと思いつつ、帰路に着いた。