「ひとつだけ聞いていい?」



「その絆創膏、朝あったっけ?」


私の人差し指を指さして、そんなことを言った綺音に適当に言い訳してかわしてきた図書室。いつも通り、先輩はそこにいた。



「あれ、浮かない顔してない?」


浮かない顔をしていたとしたら、きっと綺音のせいだと思う。
昔から、私の変化にめざとい人ではあった。
そう言うところが、本当に好きだったのも事実。
だけど、今は違う。


中学の頃を思い出してしまう。
頭の先から足の先まで冷える感覚があった。
手に力が入る。


「……勘違いですよ」



声が震えた。
それでもそっか、と笑った先輩。
深追いはされなかった。


今は本当に、それが、涙が出そうなくらい嬉しかった。


「ところで、茉白ちゃん」


1週間前に呼び名が昇格した。
私も先輩の名前を覚えた。さすがに。