元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される


 けれど、この状況はよくないだろう。きっとよくない。
 レインはそっとユリウスの手を押しとどめ、オリバー、と呼ばれたその男子生徒に向き直った。
 貴族名鑑も、新聞も、国の情勢もすべて頭に入っている。だから、この少年がおそらくはイシス王国の第一王子である、オリバー・グレイウォードだということも察しがついていた。

 レインはスカートを摘まみ、優雅に腰を落とす。周囲からほう、とため息が出るほど美しい姿勢は、家庭教師によく教えてもらった、レインの努力の結果だ。

「オリバー・グレイウォード第一王子殿下にはお初に御目文字します。アンダーサン公爵の妹、レイン・アンダーサンと申します」
「レイン……!」
「そうか、レインというのか、ああ、顔をあげていいぞ。なるほど、なるほど……公爵、よい義妹じゃないか」
「……」