腰のあたりまで長く伸ばした髪は、その窺い知れない顔から幽鬼のようだと例えられ、ごくわずかな使用人などの親しい人間以外には遠巻きにされるような公爵令嬢。派手なのは肩書だけね、と今レインを罵倒しているオリバー・グレイウォード王太子がかばう、子リスのような顔つきをしたヘンリエッタ・コックス男爵令嬢にあざけられたことは記憶に新しい。
 
 レインは自己肯定感が非常に非常に――非常に低い。だからその罵倒も当然のものだと受け入れたし、今こんな時になっても「結局はこうなる運命だったのよ」としか思えなかった。
 
 そんな風に、思い描いた通りの――例えば、狼狽してわめき散らすだとか――反応を示さないレインに対して、オリバーは焦れたようだった。

「なにか言ったらどうなんだ!この奴隷令嬢!」