そんなことがあったからだろうか。
 その日、レインは夢を見た。

 銀髪の、緑の目をした青年と、薄青い髪に赤い目をした、レインによく似た女性が、ゆりかごを覗き込んで笑いあっている。

 ――レインは、ゆりかごの中からそれを見ていた。

(お父様?お母様?)

 するりと喉を通り抜けた言葉は、あぶくのように消えて、音にはならなかった。
 でも、レインには確かに、そのふたりが自分を愛していると理解できた。
 そういう、優しい目をしていたから。

 ――レイン、かわいい子、イリスレイン。
 ――私たちの、宝物。

 あたたかな、お湯のような夢。ずっと浸っていたい夢だった。
 けれど、それは最後に、誰かの悲鳴のような声と、視界一杯に広がる誰かの血の色で掻き消えてしまった。