どうやっても、彼の姿を見てしまえば、やっぱり愛しさと恋しさは、ぶわっと溢れ、あっという間に、閉じたはずの蓋を開いてしまう。
「好き、だなぁ……」
もう姿が見えなくなったことを、この目でしっかりと確認してから、私はそう呟いて苦笑いしながら、今度こそ家の中に入った。
「ただいまー…」
「あら!おかえりなさい!んもう、何よ〜!帰ってくる時間教えてくれといたら、迎えに行ったのに!」
「ふふ…ちょっとした、サプライズ的な?」
「そう言われたら、怒るに怒れなくなっちゃうじゃないのー」
にこにこと温かく迎えてくれたお母さんは、この四年で兎に角、私に甘くなった。
昔から、溺愛はされていたものの、今はそれの更に上をいくのだ。
「寒かったでしょ?ほらうがいと手洗いをさっさと済ませて、こっちの部屋にいらっしゃい」
「はーい」
と、コートを脱ぎながら、洗面所へ行き手洗いうがいを済ませて鏡を見てから…しっかりと真っ赤になっている顔に手を当て、
「めっちゃ顔に出てんじゃん」
と、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。
駄目だなぁ。
一目会っただけで、声を聞いただけで、名前を呼ばれただけで、こんなにも素直に反応してしまう自分が、とにかく馬鹿みたいに分かり易くて嫌になる。
とりあえず、なんとか立ち上がって、ぱん、と顔を叩いてそれから暫く火照った顔をメイクを落とすことでなんとして、とりあえず暖を取るのにコタツに入ると、お母さんが徐に口を開いた。
「で?」
「…は?」
「詠太郎くんには、もう会ったの?」
テーブルの上に置いてあったみかんを、取り損ねてコロコロと転がす。
お母さんは、転がって行ったみかんを手に、固まった私に対してにやにやと、次の言葉を待っていた。
「…はぁ。ほんと、お母さんは勘が良すぎ。途中で会ったよ。なんか、どっかに用でもあったのかな?あ、でも、家の前まで荷物持って送ってくれた」
「あらあらあらー!美南ったら、ちゃっかり詠太郎くんには帰る時間とか伝えといたの?あんたも隅に置けないわねー!」
まるで、女子高生のようにキャッキャとはしゃぐお母さんに…ほんの少しだけ頭が痛くなる。
「いやいや。お母さんに日にち言っただけで、それ以外は誰にも言ってないよ。多分、偶然」
そう、お母さんに言いつつ、自分にも言い聞かせようとする。
期待して裏切られるのは、もう嫌だから。
でも、お母さんは続けざまにはしゃぐ。
「まぁまぁ!そんなこと言っちゃって!美南だって嬉しかったでしょう?それにしても詠太郎くん、健気ねぇ。お母さん泣けてきちゃうわぁ」
「ちょっと!そこで泣かないでよ」
コタツのテーブルにこつんと頭を乗せて、私はもう一つみかんを掴んでから、それを剥こうとはせずに溜息を吐いた。
確かに、あんな所にいられたら、待っていてくれたのかななんて、ついつい思ってしまう。
それは、仕方がない。
だって、如何したって私は彼が好きなんだから。
でも…。
「何、言いたかったのかな…」
あの口ぶりだと、なんだか責められそうな感じだったな。
もしかして、こっちに帰って来て欲しくなかったとか…?
「あー…最悪」
「なぁに、一人でブツブツ言ってるの。ほら、体が温まるように、今夜は美南の好きなシチューにしたから、沢山食べて早めに寝なさいな。あんた、目の下すんごい隈よ?」
「……最後のは、余計な一言ですぅ〜。でも、ありがとね、お母さん」
ことん、とテーブルに置かれたほかほかと湯気の出ている、お母さん特製のシチューに向き合いながら、小さく頂きますをして、私は食事に集中することにした。
「好き、だなぁ……」
もう姿が見えなくなったことを、この目でしっかりと確認してから、私はそう呟いて苦笑いしながら、今度こそ家の中に入った。
「ただいまー…」
「あら!おかえりなさい!んもう、何よ〜!帰ってくる時間教えてくれといたら、迎えに行ったのに!」
「ふふ…ちょっとした、サプライズ的な?」
「そう言われたら、怒るに怒れなくなっちゃうじゃないのー」
にこにこと温かく迎えてくれたお母さんは、この四年で兎に角、私に甘くなった。
昔から、溺愛はされていたものの、今はそれの更に上をいくのだ。
「寒かったでしょ?ほらうがいと手洗いをさっさと済ませて、こっちの部屋にいらっしゃい」
「はーい」
と、コートを脱ぎながら、洗面所へ行き手洗いうがいを済ませて鏡を見てから…しっかりと真っ赤になっている顔に手を当て、
「めっちゃ顔に出てんじゃん」
と、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。
駄目だなぁ。
一目会っただけで、声を聞いただけで、名前を呼ばれただけで、こんなにも素直に反応してしまう自分が、とにかく馬鹿みたいに分かり易くて嫌になる。
とりあえず、なんとか立ち上がって、ぱん、と顔を叩いてそれから暫く火照った顔をメイクを落とすことでなんとして、とりあえず暖を取るのにコタツに入ると、お母さんが徐に口を開いた。
「で?」
「…は?」
「詠太郎くんには、もう会ったの?」
テーブルの上に置いてあったみかんを、取り損ねてコロコロと転がす。
お母さんは、転がって行ったみかんを手に、固まった私に対してにやにやと、次の言葉を待っていた。
「…はぁ。ほんと、お母さんは勘が良すぎ。途中で会ったよ。なんか、どっかに用でもあったのかな?あ、でも、家の前まで荷物持って送ってくれた」
「あらあらあらー!美南ったら、ちゃっかり詠太郎くんには帰る時間とか伝えといたの?あんたも隅に置けないわねー!」
まるで、女子高生のようにキャッキャとはしゃぐお母さんに…ほんの少しだけ頭が痛くなる。
「いやいや。お母さんに日にち言っただけで、それ以外は誰にも言ってないよ。多分、偶然」
そう、お母さんに言いつつ、自分にも言い聞かせようとする。
期待して裏切られるのは、もう嫌だから。
でも、お母さんは続けざまにはしゃぐ。
「まぁまぁ!そんなこと言っちゃって!美南だって嬉しかったでしょう?それにしても詠太郎くん、健気ねぇ。お母さん泣けてきちゃうわぁ」
「ちょっと!そこで泣かないでよ」
コタツのテーブルにこつんと頭を乗せて、私はもう一つみかんを掴んでから、それを剥こうとはせずに溜息を吐いた。
確かに、あんな所にいられたら、待っていてくれたのかななんて、ついつい思ってしまう。
それは、仕方がない。
だって、如何したって私は彼が好きなんだから。
でも…。
「何、言いたかったのかな…」
あの口ぶりだと、なんだか責められそうな感じだったな。
もしかして、こっちに帰って来て欲しくなかったとか…?
「あー…最悪」
「なぁに、一人でブツブツ言ってるの。ほら、体が温まるように、今夜は美南の好きなシチューにしたから、沢山食べて早めに寝なさいな。あんた、目の下すんごい隈よ?」
「……最後のは、余計な一言ですぅ〜。でも、ありがとね、お母さん」
ことん、とテーブルに置かれたほかほかと湯気の出ている、お母さん特製のシチューに向き合いながら、小さく頂きますをして、私は食事に集中することにした。



