「わぁ……!元宮君、花火綺麗だね…!」



色とりどりに煌めく花火は去年となにも変わらなかった。
変わったのは横にいる人間だけだ。



「柚月」


「元宮君、空見てって!私の方じゃなくてさぁ、」


「柚月…」



突然ふわりと優しく抱きしめられる。

いきなりのことで思考が停止していると、元宮君は悲しそうに私の名前を何度も呼んだ。

なんだって言うのだろう、元宮君。



「柚月……ゆづ……」


「ど、どうしたの?体調悪い?」






「俺のこと忘れてても良いから、俺から離れないで、俺とずっと一緒にいて」






愛の告白というよりは、親から離れたくない子供みたいだなぁと他人事のように思った。

親に縋り付いて離れないでって泣く子供みたいだ。



「忘れないよ、元宮君」


「良いよ……もう、良いから……これからは、俺とずっと一緒にいてくれれば」


「…………」



段々と力強く私の身体を抱き締める彼に、なんだかモヤモヤとした。

なにかを私に期待してるくせに、彼は自己完結してる。

そのなにかは今はまだ分からないけど。



「……元宮君、花火を見る時は"たまや"って言うと思うけど、現代だと"かぎや"が正しいらしいよ」


「……は、」


「もう知ってた?」


「……知らない、けど……」



あぁ、響子ちゃんはやっぱり博識だ。

元宮君の身体を引き剥がして空を指差す。



「元宮君、私はどこにも行かないけど、花火はすぐ終わっちゃうよ。だから、ちゃんと花火に集中しないと勿体ないよ!」



正直照れ隠しもあったと思う。

でも、ここを逃したら来年になるまで見れないって考えると、見といた方がお得だとも思う。


元宮君は一瞬惚けた顔で私を見るも、素直に夜空に光る花火を見つめた。


皆、私達と同じ花火を見れているんだろうか。




元宮君は、花火を見ている時間、ずっと私の手を握っていた。