授業が終わり、10分休憩の時間になった。



「あっ、私トイレ行ってこよっかな〜……」


「さっきもトイレ行ってなかった?」


「いや!またしたくなっちゃって…!」




嘘です。

ただその噂の転校生をひと目見ようと隣のクラスを覗いてくるだけです。


響子ちゃんには口が裂けてもそんなミーハーみたいな事をしてるなんて言えない。
そんな事を正直に言った日にはどんな罵詈雑言を言われるか分かったもんじゃないからね…


そんな私の思いもつゆ知らず、響子ちゃんは「飲み物の飲みすぎは良くないよ」と少し斜め上のアドバイスをくれた。


嘘をついてる罪悪感もあって逃げるように足早に教室を出て隣のクラスに顔を出す。


……人が多すぎて扉の前が塞がれて何も見えない。私のように見に来た生徒が山ほどいる。


しかも大半が女子で、クラスの中心からは女の子の歓喜に震える声が聞こえてきて凄いことになってるよ。


どうにか人の間をくぐって、なんとかクラスの中心が見えるようになると、黄色い歓声の元となってるであろう人物が見えた。



明るい髪色にスっと通った鼻筋。

鬱陶しそうに周りを見渡すその瞳ですら美しく輝いて見える程の圧倒的"美"。

そう、例えるなら美の暴力。とんでもないイケメンだった。


私も思わずギャラリーの女の子達のようにきゃ〜!と黄色い歓声を上げていると、そのイケメン転校生とガッツリ目が合ってしまった。


目が合ったら合ったで困ってしまうのが私の悪いところだと思う。


さっきまで黄色い歓声をあげていた私の喉は、ひゅっと音が鳴りなにも発さなくなってしまった。


な、なんで私の方そんな見てるんだろ……


ブスがうるさいっていう無言の圧力なんだろうか。


色んな意味でドキドキしていると、なんと彼がこっちに向かって歩き出してきた。


えっ?えっ?そんなに気に入らないことしたかな?



転校生は、ゆっくり私の所に歩を進めると、挑戦的な笑みで私を見つめた。



「おい」


「…は、はい……、?」




声もスタイルも良いんだな〜って現実逃避してみる。

もしかしたら私の隣の人に声掛けてるんじゃないかなって思ったけど、どう考えても視線が私に向いてる。



(調子乗って見に来なきゃ良かった……)




響子ちゃんの言った通りだった。

ブスが調子乗ってこういうことすると、転校初日のイケメンに直々に言われるんだ。


イケメンの口から出るであろう言葉を顔面蒼白になりながら待っているが、いつまで経ってもその言葉が聞こえない。


チラリとイケメンの目を見ると、彼は私の目をうっとりとした顔で見つめ、口を開いた。









「お前、俺の女になれよ」



「……え?」






神様、これは一体どういうことなのでしょうか…