【叔父様ノ覚エ書】~叔父様の書物をこっそりと読みましたら、叔父様が殺されたらしいとわかりました。お可哀想な叔父様。待っていてくださいね。美咲がきっと助けて差し上げます…~


 



 …………。

 目覚めた少女のその瞳には、あらゆる顔のいきものが映っている。

 耳障りな高い音。

 それは「みさき、みさき」と言っているのだが、少女にはその意味は分からない。

 ただ、きんきんと、耳に五月蠅い。

 突然、体が前後に振れた。

 たくさんあるいきもののひとつが、少女の手をつかんだのだ。

 少女はつかまれた感触のあるそれと、少女に触れたそのいきもののそれが同じような形をしているので、どうやら『じぶん』もこの目の前のいきものと同じような形状をしているようだ、と気がついた。

 ここで初めて少女は、なにかを知覚する自己がいることに気付く。

 少女は自己と言う言葉を知ってはいない。

 自分とか、私とか、我と言う言葉も知っていない。

 ただ、言葉を持たない動物のように『じぶん』がいるということに気が付いただけだった。



「美咲、僕がわかるかい。美咲」



 和樹は美咲ちゃんと呼ぶのをやめていた。

 つかんだその手のぬくもりを離さないように、必死に見つめ、名を呼んだ。

 『じぶん』の手をつかんでいるいきものが、『じぶん』を見つめながら、なにかを発している。

 美咲にその意味がわかるはずもなかった。

 和樹のその声はなにかの響きでしかなく、少女には意味を全く解さない。





 ―――少女には、なにもかもが、わからないのだ。
















(了)
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ご愛読ありがとうございました。
少女の恋心は、この世からすっかりなくなってしまいました……。
美咲の自己犠牲と儚い恋とを、和樹と共に悼んでいただければ幸いです。……
また次の作品でお会い致しましょう。