【叔父様ノ覚エ書】~叔父様の書物をこっそりと読みましたら、叔父様が殺されたらしいとわかりました。お可哀想な叔父様。待っていてくださいね。美咲がきっと助けて差し上げます…~



 



 霧がかった思考に、突然夜風のような冷たい風が吹いた。

 一筋の光明、と言うにはその光は鋭すぎた。

 凛羽の言葉を理解できた時、背筋がぞっと震えた。

 和樹を愛したことを忘れてしまう。

 それは美咲を美咲たらしめていた自己を失うことだ。

 自分が失われる。

 ここにいる美咲はもうどこにもいなくなる。

 自分さえ自分を知らなくなる。

 なんと空虚な寂しさ! 

 想像できるだろうか。

 いや、できまい。

 しかし、もししてみるのなら、それは冬の凍った湖に裸で放り出されるような恐怖に違いない。



 それでも美咲は、それでも……と思った。

 凍えるような鋭い恐怖と同時に、どこか完璧な美しさに気づいた。

 ここまで己を捨てて、和樹を愛したのだ。

 すべての記憶を投げ打って愛しい人に尽くせたのなら、美咲の恋はもうなにも後悔することはない。

 肉体なんかの比ではない。

 心だ。

 真に懸ける、心の重さ。

 これ以上ないすべてを失った先に、和樹の再生がある。

 それなら美咲は後悔しない。

 少女はその完結した自らの初恋を愛でた。

 もはや精神は揺るぐことはなかった。

 数えでたった十四の少女は、自分の犠牲の先にある和樹の幸せを選ぶことを心に決めた。

 それほどまでに美咲の想いは高みに達していた。

 高みなんて言われたら、彼女はきっと首を横に振っただろう。

 美咲はただそうしたかったのだ。



 一つ息を飲んで確かめるように言った。



「……構いません。お願いします……」