視界を濡らす雨は全く止む気配がない。
舟の縁に縋るようにしておいおいと泣き出してから、どれほどの時間が過ぎただろう。
少女の胸に棲んだ恋。
相手のために自己犠牲を厭わない美咲の想いは、いかにも乳臭く少女趣味だった。
それでも美咲は真剣だった。
その熱はひたすらに純粋だった。
真剣に恋をしたのだ。
命をかけてもいいと思えるほどの愛。
いかにもと言われるその恋が、どれほど尊いものか、少女は知らない。
少女は未だ知らない。
世の中にはいろいろな愛の形があることを。
知らぬがゆえに、これ以上の愛が世の中にはそうあるものではないと言うことを知らない。
そして、知らぬがゆえに、この愛に一心に身をゆだねることしか知らなかった。
美咲の初恋。
そして、その終わりだ。
どれだけそうしていたかわからない。
いくら悲しい終末でも、味わうことをやめたらそれこそ本当の終わりだ。
それが嫌で、なんとかどうにか泣き続けていたのだけれど、その終が訪れようとしていた。
泣き疲れて声も出なくなった頃、凛羽は静かな声で言った。
「そこまで強い想いがあるのなら通行約束手形を作りましょう」
泣き濡れた顔を上げた。
凛羽は涼やかな瞳で美咲を見つめている。
その視線はなにか強い覚悟を強いる独特の瞳だ。
「お代は、記憶を頂きます。
ただし記憶は一度引き出したら戻せません。
これまで生きて来たすべての記憶が貴方の身体から消えてしまいます。
もちろん、貴方がどうしてそこまでしたのか、どうして記憶を失ったかのそのことも覚えていません。
渡邊和樹を愛したことさえも、貴方は忘れてしまいます。
それでも構いませんか?」



