【叔父様ノ覚エ書】~叔父様の書物をこっそりと読みましたら、叔父様が殺されたらしいとわかりました。お可哀想な叔父様。待っていてくださいね。美咲がきっと助けて差し上げます…~


 



 凛羽は小首を傾げた。美咲はその大きな瞳でしっかりと凛羽を見据えた。



「この身体をお渡しします。

 この身体は私がこれまで生きてきたすべての想い出が詰まっています。

 ですから、この身体に勝る想い出の品はありません」



 そっくりな顔が二つ、驚いたように瞬きをした。

 思わず声も出ないほどに。



 ――たとえ一生会えなくても、叔父様が無事家族のもとに帰っていらしたらそれでいい。

 そうでなければ悲し過ぎる。

 寂し過ぎる。

 死に場所はどことも知れず、家族の誰一人どう絶えたかもを知らず、骨は誰にも供養されることもなく……。

 美咲であったら耐えられない。

 叔父様が生き返ってこの世に戻って来てくれるなら、美咲の身体がなくなってしまうことなんてなんとも思わない。

 美咲は叔父様が、美咲の大好きな叔父様がそんな惨めに死んでしまったなんて耐えられない……。



 やっぱり残念そうな顔をして、凛羽は宥めるような口調で言った。



「人の身体は死んだときに土に返すものと決まっています。

 残念ですが、貴方の身体を受け取るわけにはいきません」



 美咲は頬を打たれたようにじわりと涙を浮かべた。

 叔父が戻ってくるのなら、自分の身体さえ惜しくはない。

 これしかないと思っていたのに。

 叶わぬ望みに、打ちひしがれた。


 必死に祈ってここまで来たと言うのに、美咲の祈りはなにひとつ無駄だった。

 叔父様に会いたい一心で、天に至る舟に乗ったと言うのに。

 美咲の想いは和樹にとってなんの足しにもならない。

 愛する人のために、美咲はなんの助けにもなれない。

 静かな水音が忍び寄り、無力感を知らしめた。

 なんという徒労、無意味。

 吹きすさぶ木枯らしのように、冷たい。

 過ぎ去った時の重さが、心の泉を枯渇させていく。

 これが結末。

 関係性の終末。

 ああ……! 

 美咲と和樹の距離は、もはや永遠に縮まることはないのだ。