和樹叔父の言う通りだった。
舟に乗った瞬間から、景色はまるで乳白色になり、そこには黒々とした朧川だけが延々と続いていた。
「それでは一時の船旅をお楽しみ下さい」
玲羽は舟を漕ぎ出した。
景色はどこまでも白く、どこまでも広かった。
美咲はただ黙って前方を見ていた。
櫂を漕ぐ水音だけが響いている。
玲羽もまるで思い詰めた様子の美咲になにも言わなかった。
しばらくして川の水は透明に澄み渡り、和樹の覚書の通りに色取り取りの輝玉が水底に現れた。
美咲は恐る恐る水に手を入れてみると、薄紅色の手の平大ほどの珠が吸いつく様にして手に収まった。
なるほどこれが美咲の玉か、と確かめて静かに水に流した。
果たしてどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
川の前方にはあの小舟が浮かんでいた。
「お客さん、あそこが水上商ですよ」
舟はゆっくり水上商の舟の隣に止まった。
その小舟に座っているのは、白い袴にグレーの帽子を被った少女だった。
その左目の下には、玲羽と同じ黒子があった。
「いらっしゃいませ。なんにしましょう」
凛羽は覚書と全く同じことを言った。
ここまで来てしまうと美咲の肝は座っていた。
美咲は迷わずに答えた。
「和樹叔父様に通行約束手形を作って差し上げたいのです。
どこからでも、どこへでも行ける一番いいものをお願いします」
凛羽は笑顔ではなく残念そうな様子を浮かべて言った。
「通行約束手形は、大切な想い出の品物をお代に頂いています。
残念ですが今貴方がお持ちの物の中で、一番良い手形が作れるほど価値のあるものをないようです」
すると美咲は首を振った。
「いいえ、ありますわ」



