何度も何度も繰り返す。
花よ蝶よと育てられた美咲は、これほどまでに必死になったことはない。
その他にできることはなかった。
必死になる以外に方法がなかった。
とうとう泣き疲れて、祈り疲れて、ああやはりだめかと思い始めた。
やっぱりあの覚書は作り話だったのだと納得し始める。
子どもじみたことをしたと、自分でもおかしくさえ思った。
しかし次の瞬間、あろうことか美咲は川の向こうに小舟を見つけたのだった。
初め美咲はそれがあの小舟とは思わなかった。
だけどどうだろう。
こんな狭く浅い川で舟を漕いでいる人など、美咲はこのかた見たことがない。
小舟の船頭がやはり編み笠をしているのを見た。
小舟は美咲の前で止まると、船頭はひょいと顔を上げた。
その少年の顔、左の眼の下には一つくっきりと黒子があった。
自分で望んだことでありながらも、あまりに奇妙なできごとを目の前にすると自然と体が強張った。
――これは夢? 美咲は夢を見ているの……?
痺れるような感覚の中で自分の頭に問いかけた。
「お客さん。貴方の行き先はうまくないですよ」
船頭は少し顔を曇らせるように言った。
はっとした。
この少年は分かっている。
あの、橋渡しの少年がに間違いない。
やはり、現実なのだ。
美咲はいよいよ覚悟を決めた。
握りしめた拳をゆっくり突き出し、和樹の通行約束手形を差し出した。
「あ、あの……。和樹叔父様の手形はここにあります。
和樹叔父様をここへ連れてきて欲しいのです」
玲羽はそれを受け取るとすまなそうな顔をして見せた。
「残念ですけどね、これはもう無効ですよ。
あのお客さんは死んだときにこれを持っていなかったんですよ」
なにかがくんと折れるように、美咲の芯が急激に強ばった。
頭の中に、死んだ、と言う冷たい響きがこだまする。
「そんな……」
それ以上の言葉が続かなかった。



