【叔父様ノ覚エ書】~叔父様の書物をこっそりと読みましたら、叔父様が殺されたらしいとわかりました。お可哀想な叔父様。待っていてくださいね。美咲がきっと助けて差し上げます…~




 



 それ試みは脆くも崩れ去る。

 同じ理性が推論を打ち消しあう。

 ならば、なぜ手紙が来ないのか。

 和樹叔父は旅先を変えるごとに母親(美咲の祖母)に手紙や絵葉書を送ってきたと言う。

 何度かは東京に住む美咲にも旅先から手紙をくれたではないか。

 それが途絶えて三年。

 どう考えても和樹になにかがあったとしか考えられない。

 美咲の手は自分でも驚くくらいに震えていた。



 思わず唇を噛んだ。

 理性の支配の隙間から熱いものがつつっと流れた。

 その場に崩れるように座り込む。

 涙がかけ流した湯のように止まらない。

 暗黒の雨雲が胸を支配する。

 和樹は死んだ、和樹叔父は死んだのだ。

 美咲の初恋の相手、和樹叔父様は、もういない。

 叔父様が、死んだ……!

 呻くようにして床に手をついた。

 嗚呼、このまま倒れ込んでしまいたい! 

 それと同時に、あの紙片が美咲の手に感触を残した。

 美咲はぽろぽろと涙を零しながら、それを見た。



 何處からでも何處へでも



 どこからでもどこへでも。

 どこからでもどこへでも……――。

 美咲はその言葉を反芻した。

 和樹叔父は橋渡しの少年玲羽と死せずとも出会っている。

 そして天へと至る川を登ったのだ。

 美咲の直感は救いを求めるようにたちどころに働いた。

 通行約束手形を握り締めると廊下を駆け出す。

 応接間を脇を抜けた後から母の声が聞こえた。

 美咲は革靴に足を滑らせると、玄関を開け放って家を飛び出した。