美咲ちやんはもう七つになつた。
觸れたら溶けて了いさうな雪のやうに白い肌に、陶器で出來たやうなとろつとした大きな瞳。
黑眼は水底のやうに深く、白眼は靑磁のやうに澄(す)んでゐる。
小さな唇はぷつくりと丸く、さくらんぼうのやう。
人形のやうに愛らしい姿に、可愛い声。
少し甘えん坊な處が有るけれど其那ところも殊の外愛らしい。
僕もいづれ奥さんを貰い娘を授かることが出來たのなら、美咲ちやんのやうな子が良いと考へたりする。
最近は良く學校の歸りに僕の元へ遊びに來て呉れる。
美咲ちゃんはきつと誰より美しい娘になつて、立派な他家に嫁いでゆくに違いない。
何時か來る其の時、僕は如何那(どんな)氣持ちで見送るだらう。
芳樹兄さんは泣くだらう。
僕も泣いて了う氣がする。
しばし脱線して了つた。
親族のことを思ふと、故郷が懷かしくなるのは僕に限つたことではないだらう。
I市の観光もそこそこに、僕は故郷へ歸る算段を立てた。
「もうお發ちになるんですか」
「歸ると決めたら、何だか氣が急いて了つて」
朝早く旅館の門を出た。
女將(おかみ)はタクシイを呼びませうかと言つて呉れたけれど、バスが出てゐるのを知つてゐたので斷つた。
財布の中身に其れ程餘裕がなかつたのだ。
頭にはグレイの帽子と黒革の手袋を身に着けて、バス停に向かつた。
白い息は朝の空気に解(ほど)けるやうにして消へてゐく。
晴れてゐるのに、何處か霞(かすみ)掛かつたやうな天気だつた。
天津川に掛かるアヽチ状の橋の眞ん中で立ち止つた。
川の南側を渡し舟が一艘、ゆつくりと流れてゐる。
船頭が拍子良く櫂(かい)を漕いでゐた。
數日間此の川の周邊(しゅうへん)をうろ附いてゐたのだけれど、此處で舟を見たのは初めてだつた。
こんな朝早くから、客があるのだらうか。
川下りは、春は櫻、夏は新綠、秋は紅葉と人氣がある。
しかし、冬はさう面白いとは思へなかつた。第一寒い。
近所の使いか何かだらう。
さうだと決めつけて暫く眺めてゐた。
舟の主のほうも僕に氣附いたらしく、こちらに向かつて輕く手を擧(あ)げた。
バスの時刻迄暫く時間があつたので、少しばかり興味が惹かれて土手を下りて行つた。
「お早いですね。此那寒い日にも舟を出されるんですか?」



