芳樹(よしき)兄さんと美(み)冬(ふゆ)義姉さん。其の一人娘の美咲ちやん。
目に入れても痛くないと言ふ芳樹兄さんの溺愛ぶりを、何處で解し難いと思つてゐたのだけれど、初めて会った美咲ちゃんは丁度喋り出した頃で、珠のように可愛かつた。
不思議に思はれるが、姪と言うのはだうしてあのように愛らしいものなのだらうか。
兄さんは仕亊が大變上手く行つてゐて、そして大層な愛妻家である。
淑子(よしこ)義姉さんは大層氣の良い明るい性格でとても良く心得てゐる。
渡邊家の嫁として申し分のないお方だ。
俊樹兄さんに似て元氣で體が大きい亮(たすく)君と渡(わたる)君。
亮君は柔道、渡君は剣道をやつてゐて、どちらも大変見込みがあると言ふ。
今年で十二と十になる。二人共健やかな逞(たくま)しい渡邊家の男児に育つてゐる。
全く活力と言ふものの嵩が違うのだ。
二人が確か七つと五つだつたか。
もはや遊び相手にもならないほどに疲弊させられたのを覺えてゐる。
子ども相手に何とも情けない氣持ちになつたものだ。
其那調子なのだから、叔父として面目などは立ちはしない。
僕の理想とするものを全てお持ちだ。
美冬義姉さんは元旦の雪の神々しい程に美しい人で、まさに鴛鴦(おしどり)夫婦を繪に描いたやうな二人なのだけれど、長いこと子寶(こだから)に惠まれなかつた。
子ども好きな義姉さんはその間特に辛く思ひをしたさうだ。
故あって授かつた美咲ちゃんが可愛いのは当然だったが、生まれてすぐ小児性の熱病にかかり、一時は命が危ぶまれるやうな亊態があつた。
そんなことで夫妻の溺愛振りが近所中の評判になるのは致し方ない。
今では僕もその一味だ。
だうやら、命を無性に愛おしく思うのは、理屈ではないらしい。



